今回は2022年に法政大学出版局より出版された『伊波普猷の政治と哲学〜日琉同祖論再読』の著者である崎濱紗奈さんにお話を伺いました。インタビュアーは二井彬緒さんです。
【著作概要】本書は、近代沖縄を代表する思想家・伊波普猷(1876-1947)のテクスト分析を通して、その「政治」と「哲学」の可能性と限界を明らかにするものである。
伊波の思想は「日琉同祖論」として知られ、これまで様々な解釈がなされてきた。大日本帝国が推進した同化主義を正当化する言説として厳しく批判されてきた一方で、帝国下における「琉球・沖縄」の個性を保つための戦略的同化主義として評価する読解も根強い。
これに対し本書は、先行研究が「日本」「琉球・沖縄」という二つの主体を前提として伊波の「日琉同祖論」を読解してきたことの限界を指摘し、<原日本>=<原沖縄>という全く別の場所を開くための試みとして、これを理解することを試みる。
伊波のこのような試みには、天皇を中心とする大日本帝国の国家主義を批判する回路が秘められていたが、同時にそれは、「政治」を徹底的に抹消しようとする「政治神学」としての側面も併せ持っていた。
本書は、このような伊波の思想的限界を指摘するとともに、伊波が消去しようとした「政治」が、実は伊波のテクストの内部に常に・既に書き込まれていたことを、脱構築的読解によって読者に提示することを試みる。
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【ゲスト:崎濱紗奈 プロフィール】
1988年沖縄生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(表象文化論)博士課程単位取得退学。博士(学術)。東京大学東アジア藝文書院(EAA)特任助教。専門領域は沖縄・日本近現代思想史、ポストコロニアル研究。主な論文に、「第三次反安保運動下的沖繩基地問題:從SEALDs談起」(馮啓斌・崎濱紗奈共著、『文化研究』第21期2015年秋季、交通大學出版社)、“‘Political Philosophy’ of Ifa Fuyū: the Limits of Identity Politics” (Identity and Movements, EAA Booklet No. 17, East Asian Academy for New Liberal Arts, the University of Tokyo)、「『東アジア』において理論を希求するということ〜沖縄の『復帰』をめぐる考察を出発点として」(『日本學論集』第44号、グローバル琉球沖縄研究所・慶煕大学大学院日本学研究会)などがある。
【インタビュアー:二井彬緒 プロフィール】
東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍(超域文化科学専攻表象文化論コース「人間の安全保障」プログラム所属)。専門は社会思想史、ハンナ・アーレント研究。関心は難民問題、ユダヤ人問題、イスラエル・パレスチナ紛争。主論文として「ハンナ・アーレントの『ユダヤ軍創設論』〜初期におけるシオニズム論と後年に対する影響」(『Arendt Platz』7号)。プロフィール詳細:https://researchmap.jp/akio-futai21