今回は、2022年に京都大学学術出版会より『大阪のエスニック・バイタリティ〜近現代・在日朝鮮人の社会地理』を出版された福本拓さんをゲストにお迎えしました。インタビュアーは仙波希望さんです。
【著作概要】
在日朝鮮人最大の集住地区である大阪・猪飼野は,詩人の金時鐘がヴィヴィッドに描き出したように,移住者が困難な状況の下でも活気ある生活状況を呈し,それでいて「地図にない」「日本でない」と称される場所であった。本書は,この「見ようとしなければ見えない」集住地区を大阪という都市のバイタリティを体現する空間と捉え,その歴史的変遷を明らかにする。
分析に際しては、多種の統計を用いつつ、土地と資本との関係にも焦点を当てている。戦前に形成された集住地区は、戦中・戦後の再編を通じて現在の形態に近づくが、戦後はそれが空間的に固定化されていく過程があった。そこには、戦後日本における排除・差別の中で形成された,自営業を中心とするエスニック経済の諸特性が強く影響している。
1980年代以降、在日朝鮮人の社会経済的地位の向上によって集住は弱化していくが、次の段階として、既存の集住地区での「ニューカマー」韓国人の増加やそれに伴う景観変容も見られた。ここからは、植民地主義下で形成された集住地区が、現代の国際人口移動の結節点としても機能していることが看取できる。さらには、韓流ブームというグローバルな文化消費によって、旧来のコリアタウンは観光地として大きく変貌を遂げつつある。
こうした,衰退局面においても次の活性化の兆しが生じるダイナミズムを集住地区は有しており,そのバイタリティが大阪という都市を特徴付けてきたといえる。
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【ゲスト:福本拓 プロフィール】
南山大学人文学部日本文化学科准教授。1978年大阪市生まれ。2007年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員、三重大学人文学部特別研究員、宮崎産業経営大学法学部講師、同准教授を経て、2019年より現職。博士(文学)。専門・関心は、都市社会地理学、多文化共生論。 第7回地理空間学会奨励賞を受賞。 主要編著:『都市の包容カ―セーフティネットシティを構想する』(共編、法律文化社、2017年)、Diversities of urban inclusivity: Perspectives beyond gentrification in developed city-regions (共編、Springer、 近刊).
【インタビュアー:仙波希望 プロフィール】
1987年生まれ。専門は都市研究、カルチュラル・スタディーズ。博士(学術)。現在、広島文教大学人間科学部准教授。主な著書に『惑星都市理論』(編著、以文社、2021)、『忘却の記憶』(編著、月曜社、2018)など。